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事例9 【真実を読む】小児における高次脳機能障害の症例

小児における頭部外傷は事故直後からこれまでにない問題行動が出現するパターンと、就学前においては、社会との接点や対人環境が増える就学時に学習障害や周囲との関係構築における問題が目立ち始めるケースとがあります。これらは稀な事案ではありませんが、MRIや事故後の意識レベルに問題がない判断され、後遺障害の認定結果は非該当となるケースが多くみられます。しかし、放射線科の専門医が再度、画像を読影する、或いは新しい検査を施すことで新たな所見や適切に診断されていなかった問題が明確になることがあります。
今回は、放射線科医の読影結果と追加実施された検査により、臨床専門医が症状との関連性を明確に証明し、児に起きている症状が高次脳機能障害であると位置づけた一例をご紹介いたします。

事案概要

事故当時、小学3年生の男児が自転車にて右折するところ直進してきた乗用車に衝突し4メートル程度跳ね飛ばされ、頭部を打ち付け救急搬送された。事故直後から「落ち着きがない」「怒りっぽい」などの症状が出現。事故時の頭部MRIでは、n.p(問題なし)とされ、後遺障害認定では「非該当」であったため、弊社にて医療精査を行った結果・・

救急外来の所見

  • 右後頭部に疼痛を伴う皮下出血
  • 頭部CT後頭骨の骨折
  • 頭部MRI(FRAIR)大脳半球に多発性の高信号
  • 意識状態 GCS(頭部外傷の重症度)

自動車賠償責任共済後遺障害診断書

傷病名 頭蓋骨骨折、頭部外傷
自覚症状 落ち着きがない、気分のムラがある、怒りっぽい
他覚所見および検査結果 MRI脳挫傷無、脳波異常なし
WISC-Ⅲの結果 言語性、動作性IQの乖離、注意記憶の著しい低下、言語理解の低下、学校や社会の中での学習がやや困難

自賠責の結果

後遺障害非該当
画像上、脳挫傷がない、意識障害は事故翌日には意識清明、よって高次脳機能障害を否定

弊社での画像鑑定

脳挫傷の有無と他の有力な情報

  • 脳挫傷なしと主治医が診断した画像で、頭頂部に多発性高信号を認める
    この多発性高信号は児の所見としては認められることは非常に稀であり、びまん性軸索損傷を示唆する所見として評価
    また、事故4年後のMRIにおいても同所見は残存し、かつ増悪しており、びまん性軸索損傷である可能性は十分にあると診断
  • 頭蓋骨の骨折は陥没骨折で、また頚椎には楔状変形が認められ、外力を受け頭部が大きく揺さぶられた結果と考えられる

弊社からの助言

MRIの所見を更に確定づけるため、また児の障害の原因精査のため脳PETの受診勧奨を行う。

  • PETの結果、SSP解析により両側海馬と側頭葉内側に異常所見(FDGの集積低下)を認めた。よってMRIで指摘しているびまん性軸索損傷を裏付ける所見。

※FDG-PETはフルオロデオキシグルコース(FDG)というブドウ糖に似た薬を使用するため、脳神経細胞の活動が盛んな部位ではFDGが集まり(集積し)、逆に機能が低下している部位では集積が低くなるため、脳代謝機能が低下している領域を視覚的に捉えることができる。

弊社顧問医である臨床医の意見書作成

  • 交通事故との因果関係
    主治医が「問題なし」と判断した頭部MRIでは、びまん性軸索損傷を示唆する所見が認められ、経時的なMRI画像からその程度が増強している。またFDG-PETの結果から、本件患者には両側海馬の代謝機能が低下していると考えられる。海馬とは、判断力・集中力・記憶力をつかさどる部位であり、本件患者の症状とも一致する。
    患者に認める高次脳機能障害の症状は、びまん性軸索損傷によって発生したと考えられ、交通事故と高次能機能障害との間に因果関係を肯定するのが相当であると判断。
  • 障害等級の程度
    労災保険で使用している高次脳機能障害整理表に当てはめて検証を行い、WISC-Ⅲの結果から4能力のうち意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力の喪失。また、感情のコントロール、協調性は著しく障害されていることは明らかであり、社会行動能力はE(大部分消失)に該当すると判断された。
    結論:4能力のうち、1つがEに該当することから、患者の高次脳機能障害の後遺障害等級は5級2号が相当であり、さらに、WISC-Ⅲが実施された時点で、すでに交通事故から約5年が経過していることから、患者の高次脳機能障害は症状固定していると判断との見解が臨床医より意見書として提出された。

本事案のように、事故から時間が経過してから改めて適切な検査を実施し、ようやく障害が判明するケースも存在しています。少しでも疑いがある場合には様々な角度から検討を重ね、疾患の立証を行えるよう、今後も弊社では弁護士の先生方からのご相談に真摯に向き合ってまいります。

※実際に高次脳機能障害について、CT,MRIで所見が認められなかったが、PETで所見が認められ、裁判で高次脳機能障害が認定される判例も増えてきています。

―東京地裁 平成24年12月18日判決-自賠責非該当にも関わらず、高次脳機能障害を認定した裁判例-
―札幌高裁 平成18年5月26日判決-CT、MRIで所見が認められないにも関わらず、高次脳機能障害を認定した裁判例その1-