交通事故

  • #後遺障害

事例25 交通事故数日後に網膜剥離が判明。事故との因果関係を検討したケース

事案の概要

鑑定対象者:X氏 受傷当時70代 男性

X氏が運転する車が信号待ち停止中、相手車両に追突された。衝撃でX氏は前額部をハンドルに打ち付けたもの。

事故数日後に飛蚊症症状が出現し、眼科クリニックを受診。網膜剥離と診断された。しかしながら、事故の相手方は網膜剥離と事故との因果関係を否定したため、訴訟に発展。相手方は事故と網膜剥離との因果関係を否定する内容の意見書を提出した。事故によって網膜剥離が生じたか、加齢による偶発的発症であるのか、事故との因果関係があるのかについて、医学鑑定の依頼となった。

検討のポイント

(1)前額部をハンドルに打ち付けることによって、網膜剥離が起こる可能性はあるのか?

1.網膜剥離の分類と発症の原因

網膜剝離には、裂孔原性網膜剥離と非裂孔原性網膜剥離に分類される。
本件は裂孔原性網膜剥離と診断できた。

<裂孔原性網膜剥離>
好発年齢は60~70歳だが、20歳代の若年者にも認められる。
裂孔原性網膜剥離は周辺部網膜の円孔・裂孔から生じるものであり、老化、網膜の萎縮・外傷などが原因となる。

<非裂孔原性網膜剥離>
牽引性網膜剥離と滲出性網膜剥離がある。網膜の状態は裂孔原性網膜剥離と同様だが、原因、経過はさまざまであり裂孔原性網膜剥離とは大きく異なる。
牽引性網膜剥離は眼内に形成された増殖膜あるいは硝子体などが網膜を牽引することにより網膜が剥離して起きる。糖尿病網膜症などでみられる。
滲出性網膜剥離は、網膜内あるいは網膜色素上皮側から何らかの原因で滲出液が溢れてきたために網膜が剥離してしまった状態で、ぶどう膜炎などでみられる。

2.本件での網膜剥離を引き起こす可能性は?

本件では前額部をハンドルに打ち付けるという外力がかかっており、眼球に作用することで眼球内の硝子体が揺れ、網膜を牽引することで網膜剥離が起こる可能性があったと考えられる。

(2)発症は事故後数日後。事故との因果関係は認められるのか?

1.網膜剥離のリスクファクター

近視眼は網膜と硝子体の病的な癒着があることが多く、網膜の萎縮による裂孔(若年者の場合)や、硝子体牽引による裂孔(高齢者の場合)が起こりやすい。
また、眼外傷、網膜剝離の家族歴、眼科手術歴(白内障手術歴など)、片眼に網膜剝離の既往のある等が挙げられる。

2.網膜剥離の症状経過

一般に、はじめのうちは剥離した網膜の範囲は小さく、時間とともにだんだんこの範囲が拡大するというような経過を辿るが、孔が大きいと一気に進行する。網膜裂孔が生じても硝子体出血が発生するまでは無症状のことがあり、網膜裂孔が進行して硝子体出血が生じて初めて視力低下や飛蚊症を自覚することも多い。
つまり、事故直後から症状が認められなかったことをもって事故との因果関係を否定することはできない。

3.事故との因果関係は

本件では事故以前から近視があること、加齢により硝子体の液化が進んでいたことが推測された。つまり、もともと裂孔性網膜剥離の発症リスクが高い眼であったとは推測されるが、これに事故の外力が加わって、網膜剥離が発症したと考えられた。
さらに、本件では網膜裂孔が複数箇所に生じており、自然な発生とは考えにくいことも、事故の外力が加わって網膜剥離が発症したことを裏付けるものであった。

本症例でのポイント

1.相手方が事故との因果関係が否定的であるとする主な理由は、

A:症状の出現が事故から数日後であったこと
B:鑑定対象者の年齢から加齢によって生じたものと考えることが妥当であること
の2点であった。

2.メディカルリサーチの意見書では、

A:受傷後早期では網膜剥離が軽度で明らかな症状が見られない場合があること
B:裂孔性網膜剥離は外傷で生じる場合があること
といった内容を、眼の外傷にかかる複数の文献を提示し、一般論を踏まえて解説。
また、本件では網膜裂孔が複数箇所に生じているという検査所見(個別性)も踏まえて、網膜剥離の発症は事故との因果関係が否定できないとした。

その後、本件について代理人弁護士より「事故との因果関係が認定された」との報告を頂くことができました。

まとめ

メディカルリサーチでは、相手方から医学意見書が提出されている場合でも対応可能です。ほぼ全ての診療科の医師が鑑定医として在籍しているため、症例の特徴や相手方提出の医学意見書を作成した医師の専門分野に応じて、適切な医師を検討の上対応いたします。
また、意見書を作成した場合、相手方からの反論意見書が出てくることも多いです。しかし、反論意見書に対しても、当社は厳に中立的な立場を保ちつつ、医学的根拠に基づき、追加意見書を用意して対応いたします。