交通事故

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事例23 因果関係不明?事故後に生じた精神症状や物忘れ。見落とされがちな頭部対側損傷について解説

1 対側損傷とは

頭部外傷において,衝撃が加わった部位と対角線の位置に脳挫傷や脳内出血などの脳損傷がおこる現象。頭部に衝撃が加わったとき,脳に加速/減速力が生じて打撃の直下に脳損傷をきたす(直撃損傷,coup injury)。打撃部の反対側には陰圧を生じ,空洞現象をおこして,この部位に脳損傷が起きる。これを対側損傷という。とくに後頭部への衝撃に際して前頭葉や側頭葉に脳損傷を生じることが多い。

(日本救急医学会 医学用語解説集より)

解剖学上、脳は頭蓋骨の中で脳脊髄液に満たされて存在しています。まるで、水に浮いている豆腐のような構造です。
それが、交通事故などで高エネルギーを受けると、下図のように、脳は頭蓋骨内で激しく揺さぶられることから、衝撃を受けた受傷部位とは反対側の部位にも損傷が起こる訳です。


図参照:wikimedia
(https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Contrecoup.svg)

 

このように交通事故などで実際に打った部分ではない反対側に脳損傷をきたし、それによる症状を発症することがあります。
したがって、このような画像が捉えられた際には、事故に起因した外傷と裏付けることができます。

2 症例画像のご紹介

(症例1) 

  

右後頭部に衝撃を受けたことによる皮下血腫を認める(赤矢印)
左側頭窩に硬膜下血腫を認める(青矢印) → 対側損傷

(症例2)

           

左側頭部に衝撃を受けたことによる皮下血腫を認める(赤矢印)
右側頭~後頭部に脳挫傷を認める(青矢印) → 対側損傷

(症例3)

   

左側頭部~後頭部に衝撃を受けたことによる皮下血腫を認める(赤矢印)
右前頭葉に脳挫傷を認める(青矢印) → 対側損傷

3 対側損傷と後遺障害

これらの症例のように、実際に衝撃を受けた部分に明らかな外傷性所見が認められることが多く、対側損傷が見落とされるケースもあります。
その場合、受傷直後の診断名に対側損傷の存在が反映されません。

対側損傷による脳損傷が高次脳機能障害など後遺障害に繋がる可能性も十分に考えられますが、受傷直後にきちんと診断がなされていないと、後遺障害の認定で不利にはたらくことも考えられます。

下図のように、脳は部位によってそれぞれ司る機能が決まっているため、障害される部位によって出現する症状が異なります。

そのため、診断名と症状に整合性がない場合、事故との因果関係を否定される可能性があります!

4 高次脳機能障害の評価にSPECTやPET-CT検査を

高次脳機能障害と考えられる症状は存在するにも関わらず、画像所見がないことを理由に後遺障害として認定されないケースがあります。

例えば、症例3のケースでも、受傷から約1年後に撮影されたCTでは、対側損傷の脳挫傷の所見が確認できなくなっています。

 
受傷当日(青矢印)           受傷から1年後(所見なし)

このような症例では、脳血流SPECT検査※1やPET-CT検査※2が有効であることがあります。
CTやMRIの画像が「形態画像」と呼ばれるのに対し、SPECTやPET-CTの画像は「機能画像」と呼ばれ、「脳がどのように働いているのか」を評価することができます。

この症例では同じく受傷から約1年後に脳血流SPECT検査が実施されています。

この症例は受傷直後に左前頭葉の脳挫傷も確認されていたケースですが、対側損傷が確認されていた右前頭葉にも一致する形で、両側前頭葉の血流量低下が認められました(黄矢印)。
これは前頭葉機能の低下を示唆する所見といえます。

このように、障害の残存を証明する方法の一つとして、脳血流SPECT検査やPET検査をお勧めします。

 

※1 脳血流SPECT検査 
脳の各部における血流状態や脳の働きを診る検査。MRIやCTでは捉えられない脳血流障害の検出や神経症状の責任病巣の検出、脳の機能評価などに有効。

※2 PET-CT検査 
専用の薬剤を静脈注射等で体内に入れた上で撮影を行うことで、薬剤が心臓や脳など体の各部位に集まる様子を撮影し、循環代謝機能を評価することができる。