労災

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症例34 転落事故後による高次脳機能障害 ― 障害等級は妥当なのか?

事案概要

ご依頼者:A氏の雇用主B社の代理人弁護士
鑑定対象者:A氏 受傷当時30代前半(男性)

A氏は勤務中に高所で作業していたところ転落し、頭部外傷(脳挫傷と脳内出血)を受傷。
翌日穿頭術を施行し、急性期治療後にリハビリを実施し、受傷から約1年後、頭部外傷後の高次脳機能障害を残し、症状固定と判断された。

労災では、障害等級3級の3「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」と認定された。
この認定を受け、A氏はB社に対し、終身労働能力を喪失したと主張し、損害賠償請求訴訟を提起。

※高次脳機能障害:脳の一部を損傷したために、思考や記憶・行為・言語・注意などの脳機能の一部に障害が起きた状態

しかしながら、A氏は症状固定後にアルバイトとして建設業に従事していることが発覚。
さらに、大型運転免許も取得していたことが分かった。
これを受け、B社はA氏の後遺障害等級が実態に即していないと主張したいと考え、A氏の適切な後遺障害等級について精査依頼となった。

※事前に実施した画像鑑定(画像所見の評価)では、
頭部外傷後の所見として「脳萎縮・脳挫傷痕」が認められ、「画像所見からすれば、高次脳機能障害の存在は肯定される」との見解であった。

検討事項

障害等級3級の認定は適正といえるのか?

検討のポイント

症状固定後の実際の生活状況と障害等級(3級)との整合性

検討内容

●症状固定の判断について
複数の知能評価スケールが実施されているが、いずれも経時的に改善している。
→症状固定診断が早かった可能性がある。
A氏の年齢を踏まえれば、リハビリにて更なる改善が期待される状況であり、症状固定後も継続して症状は改善している可能性が高い。

●障害等級について
労災における高次脳機能障害は、通常下記の4能力の喪失程度により評価する(評価はそれぞれA~Fの6段階/下表1参照)。
また、これら4能力の評価を総合して障害等級が決定される(下表2)。

症状固定時の調査で評価された内容は、下表1の黄枠であったが、
知能評価スケールや、大型運転免許を取得していること、SNS投稿から窺い知れるA氏の日常生活の様子から検討すると、赤枠のような評価となった。

(下表1)黄枠:労災認定  赤枠:当社での鑑定結果

(下表2)黄枠:労災認定  赤枠:当社での鑑定結果

検討結果

障害等級3級の認定は適正とはいえない。
「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」として、障害等級第9級に該当すると判断された。
以上の内容にて、脳神経外科専門医による意見書を作成した。

この症例を踏まえてメディカルリサーチからお伝えしたいこと

本事例のように、画像上で器質的な損傷所見が残っていたとしても、実際の症状の程度には個人差があるため、画像所見と日常生活状況を総合した評価が必要です。
また、高次脳機能障害の評価では、「日常生活状況報告」という書式が用いられることが多くあります。この報告書を作成するのは対象者の家族など身近な存在です。だからこそ、実際の状況に即しているとみることもできれば、対象者の利害関係者として時にバイアスがかかってしまうことも懸念されます。
したがって、一部の情報だけでなく、全ての情報を総合的に評価することが大切であると考えています。
企業様側の場合、対象者様の詳細な生活状況を把握することは容易でない場合もあると思います。当社の鑑定では、医療記録だけなく、対象者様のSNS投稿等から窺い知れる生活状況や、探偵事務所による調査報告書の内容も踏まえて検討いたします。