労災

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事例16 精神疾患による長期療養。業務起因性と素因の影響を争う。

【事案の概要】

ご依頼者:C氏の雇用主D商店の代理人弁護士
鑑定対象者:C氏 当時20代 女性

C氏はD商店に入社し販売員業務に従事していたところ、時間外労働が増えてきた頃から徐々に精神面の不調をきたし、入社から約1年後に適応障害・抑うつ状態と診断された。
診断から5ヶ月後にD商店を退職するが、その後も8年にわたって通院を継続し、就労が困難な状況が続いた。

C氏は精神疾患を発症したのはD商店での長時間労働が原因であると主張し、D商店を相手取り民事訴訟を提起。

<D商店の主張>

C氏の精神疾患発症には業務起因性はない。仮に業務起因性があったとしても、長期療養が必要になったのはC氏の素因による影響である。

C氏の精神疾患の発症および精神疾患に対する長期療養はD商店での業務が原因といえるのか、医学鑑定の依頼となった。

【この事例における検討事項】

  1. 「適応障害」「抑うつ状態」の発症は業務起因性か。
  2. 8年にわたる長期療養は全て業務起因性か。素因の影響は考えられるか。

【検討のポイント】

  1. カルテによると、D商店での長時間労働を機に不眠や不安感などの症状が認められている。C氏の訴える症状からは「適応障害」および「抑うつ状態」の診断は妥当であり、業務起因性が認められると言える。
  2. 診療記録の経過からは、症状の増悪と軽快を繰り返し、状態に応じて内服薬を変更するなどの治療が継続して行われており、8年間という療養が必要であったことは肯定できる。
    ただし、D商店退職と同時期に一旦症状の改善が認められることから、D商店での業務に起因して発症した「適応障害」および「抑うつ状態」については寛解していると判断できる。
    その後、C氏は症状の増悪と軽快を繰り返すことになるが、抑うつ・不眠・不安感といった症状のほか、幻覚や妄想といった精神症状も認められていた。幻覚・妄想といった症状からは統合失調症が疑われる。実際、統合失調症の治療に用いられる抗精神病薬が複数処方されている。
    また、C氏は思春期に不登校となり精神科受診歴があった。パニック発作や自傷行為などが認められ、診断はなされていないが、もともと精神面に脆弱性を有していた可能性がある。

【鑑定結果】

C氏の発症した「適応障害」および「抑うつ状態」は業務起因性であると考えられるが、退職と同時期に寛解したと判断できる。
長期療養を要したのは、C氏が有していた精神面の脆弱性の影響と、統合失調症のような業務とは関係のない精神疾患による影響が考えられる。
以上の内容にて、精神科専門医による意見書を作成した。

以上