交通事故

  • #後遺障害

症例33 複数の診断基準を満たすCRPS症例 ― 後遺障害認定との乖離

事案概要

鑑定対象者:50代女性

追突事故(両手でハンドルを握った状態で信号待ち停止中に後方より追突された)

症状及び診療経過:事故直後より頚部痛及び両上肢の痛みと痺れが生じ、救急搬送される。
初診医では、頚椎捻挫・両手関節捻挫の診断にて鎮痛剤を処方されるが症状は軽減しなかった。その後、複数の整形外科やペインクリニックにて治療を受けるが症状の改善は乏しく、最終的に両上肢のCRPSと診断された。
後遺障害:自賠責保険における後遺障害認定ではCRPSであることを否定され、非該当と判断された。
依頼目的:対象者の症状はCRPSであるといえるか。

★ポイント★
CRPSの診断基準にはいくつか種類がある。複数の診断基準を用いて総合的に検討した。

検討結果

(A)後遺障害認定
後遺障害認定においては、以下の3要素が重要視されている。

項目

本症例

1.関節拘縮

2.骨萎縮

3.皮膚変化(皮膚温の変化、皮膚の萎縮)

⇒ 骨萎縮所見は認められない

 

(B)国際疼痛学会(IASP)が定めるCRPS診断基準を用いた評価

項目

本症例

1.強い持続痛,アロディニア,痛覚過敏

2.疼痛部位に浮腫,皮膚血流の変化,発汗異常のいずれか

3.上記1および2を説明できるほかの原因がない

⇒ CRPS診断基準を満たすといえる

 

(C)1997年Hardenらが報告したCRPS診断基準(感度99%,特異度68%)を用いた評価

項目

本症例

1.原因から理解できない持続性疼痛

2.3項目以上で、1つ以上の症状を有すること

知覚障害:知覚過敏・アロディニア

血管運動障害:温度の非対称・皮膚触色調変化/非対称

浮腫/発汗:浮腫・発汗変化・発汗の非対称

運動障害・萎縮性変化:関節可動域減少・運動障害(筋力低下・振戦・ジストニア)・髪/爪/皮膚の萎縮性変化

3.2項目以上の徴候を少なくとも病期中に一度有すること

知覚障害:痛覚過敏・アロディニアの証拠

血管運動障害:温度の非対称・皮膚触色調変化/非対称の証拠

浮腫/発汗:浮腫・発汗変化・発汗の非対称の証拠

運動障害・萎縮性変化:関節可動域減少・運動障害(筋力低下・振戦・ジストニア)・髪/爪/皮膚の萎縮性変化の証拠

4.これらの症状や徴候を説明できる他の疾病のないこと

⇒ CRPSの診断基準を満たすといえる

 

(D)2008年厚生労働省研究班によるCRPSのための判定指標を用いた評価

項目

本症例

自覚症状

1.皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化

2.関節可動域制限

3.持続性ないしは不釣り合いな痛み,しびれたような針で刺すような痛み,知覚過敏

4.発汗の亢進ないしは低下

5.浮腫

他覚症状

1.皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化

2.関節可動域制限

3.アロディニア(触刺激ないしは熱刺激による)

4.発汗の亢進ないしは低下

5.浮腫

※国際疼痛学会(IASP)のCRPS診断基準を満たすこと
※臨床用:自覚症状・他覚症状それぞれ2項目以上が該当すること(感度82.6%,特異度78.8%)
※研究用:自覚症状・他覚症状それぞれ3項目以上が該当すること(感度59%,特異度91.8%)
⇒ CRPSの判定指標を満たすといえる。

結論

明らかな骨萎縮所見が認められないものの、国際的な診断基準、国内で作成された判定指標、感度の高い診断基準など、複数の診断基準・判定指標を満たしており、CRPSであるといえると評価した。