医療過誤

  • #死亡原因

事例27 医療過誤(薬剤投与・監視義務違反)による損害賠償請求事案

事案の概要

案件者:50代 女性

顔面痙攣のため、かかりつけ病院にて2度の微小血管減圧術を受ける。
2度目の手術後、オペ室から一般病棟に帰室。その後まもなく心肺停止の状態で発見され、心肺蘇生するも、重度の低酸素脳症に陥り、遷延性意識障害で寝たきりとなった事案。

争点

1.術中の薬剤投与量
2.術後の監視義務違反について

弊社の利用サービス

麻酔科医による医学意見書作成

1.麻酔薬鎮痛薬の仕様の適正について

麻酔記録上、麻酔薬ディプリバン(プロポフォール)とセボフレン、鎮痛薬フェンタニルとアチルバ、筋弛緩薬エスラックスが同時に投与されていました。選択薬や容量について麻酔科医の回答は以下の通りでした。

→適切である。

一般的な全身麻酔の導入を上記薬剤で行うとすると、フェンタニルを投与後、プロポフォール投与で入眠させ、エスラックスを投与します。マスク人工呼吸を開始直後、セボフルレンの持続投与を開始します。
今回も同様の流れで14時40分に処置しています。
通常、この一連の流れは、1分以内に行われることが多く、麻酔記録上、同じ時間で投与されたと記録されていたとしても、14時40分00秒〜14時40 分59 秒の間の出来事は全て、14時40分に記録されます。従って、おそらく全くの同時ではなかったことが予想されます。
アルチバの持続投与を開始するタイミングは、麻酔科医の裁量によります。「プロポフォールで入眠させる5 分前から」持続投与を開始する麻酔科医もいれば、「麻酔導入後かつ手術開始前に」持続投与を開始する麻酔科医もいます。よって、麻酔導入時に同時に開始することは、多くの麻酔科医が納得できるプラクティスであると言えます。

2.術後管理について

患者は、手術終了後から約20分間、心電図モニター、パルスオキシメーター等、循環に対する機械的な監視装置が外されていました。術後にCTを撮影した後、一般病室に運ばれ、その直後に顔色や意識状態から異変が見つかり、既に心停止している状態で発見され、心肺蘇生措置が行われ、8分後に自己心拍が再開しています。

→「術後、モニターを装着せずに手術室をでた」ということを除けば麻酔管理は問題ないと思います。術直後は様々な不測の事態が生じ得るので、麻酔終了直後かつ脳外科手術終了直後であり、慎重なモニタリング(監視)が必要だったと言えます。

総括

心停止の原因がはっきりしない以上、避けることができたか否かを判断することは現状では困難であるとの前置きがあるものの、慎重な主観的モニタリングおよび客観的モニタリング(とくに酸素飽和度測定)は、術後(麻酔後)の低酸素状態をより早く察知することに役立つ。
従って、もし仮に本件の心停止の原因が呼吸原性であったならば、慎重な患者観察(主観的・客観的)が、速やかな治療介入に繋がり、治療介入が適切であれば、心停止を回避することは可能であった。と結論付けた。

結果

本意見書提出後に病院側が和解に応じ、和解成立。

※モニタリング
酸素飽和度・心電図モニターは、病態が変化する可能性のある重症患者や不整脈が起こりうる可能性の高い患者の観察のために使用されている。
心電図モニターは患者の急変を知らせる情報源となる。モニターのタイプとしては、患者と受信機が誘導コードで接続されている有線式と、患者に小型の送信機を使用し、ベッドサイドモニタやナースステーションなど遠隔した場所にあるセントラルモニタに伝送する無線式とがある。
ナースステーションには常に看護師や医師が出入りをしておりモニターの観察が可能であり、仮に無人であっても異常があった際にはアラーム音で知らせることが出来る。