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事例14 父はアルツハイマー型認知症だったのか?任意後見契約の有効性をめぐって兄弟が対立。少ない資料からの鑑定結果を複数名の医師による意見書で補強したケース。
【事案の概要】
ご依頼者:A氏の長男および次男
被後見人A氏:当時80代 男性
A氏には息子が3名おり、三男と同居していたところ、同居する三男主導で、A氏名義の不動産の売却等が行われていた。
この動きを不審に思った長男と次男が直接A氏の意向を確認しようとするも、面会はおろか電話で話すことすら出来ず、居場所も教えてもらえない状況であった。
そのため、長男と次男は、A氏について後見開始の審判を申立てたが、三男はA氏と任意後見契約を締結していた。
任意後見契約締結前の診断書では、「年齢相応の軽度の物忘れはあるが、自己決定能力は有する」と診断されていた。A氏は5年前には既にアルツハイマー型認知症と診断され、服薬治療をしていた。
そのことから、任意後見契約締結当時、アルツハイマー型認知症が進行していたのではないかと考えられ、契約締結時のA氏の意思決定能力の有無について、長男様と次男様より鑑定依頼となった。
しかし、三男による囲い込みのため、5年前の一部の医療記録しか取得できず、限られた資料での精査が必要な状況であった。
【この事例における判断指標】
- DBDスケール(認知症に伴う行動異常の客観的評価や経過観察の方法として信頼性が高い介護負担も反映しうる有用な評価法)
→5年前 49点(認知症の進行例に相当) - MMSE(世界中で最も用いられている認知症の検査で、認知機能のレベルを点数化し、客観的に把握できる評価法)
→5年前 17点(中等度の認知症と評価) - 頭部MRI(認知機能に影響を及ぼすような器質的異常の有無を評価する画像検査)
→5年前 側頭葉の萎縮を認める。
A氏の場合、認知症検査の結果では、記憶障害、見当識障害、論理的思考の低下が認められ、画像診断の結果では、アルツハイマー型認知症に典型的な所見であった。
【鑑定結果】
各種検査結果を総合的に評価すると、A氏は任意後見契約締結当時、中等度~高度のアルツハイマー型認知症に罹患していたと推測され、記憶障害、見当識障害などから、任意後見契約を締結できる意思能力はなかったと言える。
以上について、ほぼ同様の見解が得られたため、2名の医師(認知症専門医・脳神経外科専門医)により、それぞれ意見書を作成した。
さらに、同様の見解を示した神経内科専門医により、先の2名の医師による意見書の内容を肯定する意見書を作成した。
以上