意思能力

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事例24 脳画像なし、認知症検査なし。介護日記や手紙、写真などから遺言能力について意見書を作成した事例

事案の概要

鑑定対象者:K氏 80 代女性
ご依頼者:K氏の子の代理人弁護士

K氏には長女と長男の2人の法定相続人が存在していた。
長年、長男と同居し家業を営んでいたため、長男に財産の多くを相続させるという内容の公正証書遺言を作成していた。
2013年頃より、同居する長男はK氏の認知機能低下を感じていたが、病院で認知症の診断を受けることはなかった。また、日常生活に大きな問題がなかったため、介護認定も受けていなかった。

2016年12月に体調不良となり、精査の結果、肝臓癌が認められた。
抗癌剤治療を受けたが、全身状態の悪化により、翌年11月に死亡している。

同年2016年9月に緊急入院し、入院中である同年10月に、公正証書遺言の内容を撤回する内容の自筆遺言証書が作成され、K氏の死後、この自筆遺言の有効性が争われることとなった。
長男の代理人弁護士より、自筆遺言作成時の遺言能力は無かったのではないかと、精査の依頼となった。

検討のポイント

  • K氏は認知症だったのか?
  • 末期癌の悪化(使用薬剤の影響も含む)による認知機能低下の可能性はあるのか?
  • 頭部画像検査を含め、認知機能の評価は行われていない。

検討内容

認知症専門医だけでなく総合内科専門医の資格も有する医師が担当しました。

(1)長男が残していた当時の日記や写真から、認知症の有無を評価

  • 2013年頃から、身の回りのものの場所が分からなくなり探し回ることが増えていたこと、衣類や書類の整理ができなくなっていたことが当時の日記から確認された。
  • それを裏付ける、当時のK氏の自室内が散乱している写真も存在。

→記憶障害・遂行機能障害・視空間認知障害などが示唆されることからにより、アルツハイマー型認知症に罹患していたと考えられた。

(2)入院中の診療記録から、自筆遺言が作成された当時の身体状態を評価

  • 2016年9月には、パフォーマンスステータス(PS)ではグレード3程度の身体状況であり、CT検査でも多発転移が認められ、全身状態は明らかに悪化していることが確認された。
  • K氏は疼痛コントロールのため、複数の鎮痛剤や精神安定剤を投与されていた。
  • 2016年10月の診療記録からは、家族とも十分なコミュニケーションが成り立っていないことが確認された。

→K氏には癌の進行による身体状態の悪化が読み取れた。また、使用された鎮痛剤の副作用として、鎮静、意識障害、傾眠などの副作用が報告されていることから、判断能力にも何らかの影響を及ぼしていた可能性が考えられた。

(※)パフォーマンスステータス:ECOGという米国の腫瘍学の団体が決めた全身状態の指標であり、患者の日常生活の制限の程度を示す。

(3)医療記録やその他の資料から、自筆遺言を筆記できたか評価

  • 2016年10月の時点で臥床による廃用の影響があり、起居動作には介助が必要な状態であり、入院以降、検査等にかかる全ての同意書への署名は代筆で行われていたことが確認された。
  • K氏が健在であった頃の直筆の手帳や手紙の筆跡と、入院中に作成された自筆遺言との筆跡が大きく異なることが確認された。

→医療記録から確認できる当時の身体状態と、実際の筆跡から、自筆遺言の筆跡が本人のものであるか疑わしいと考えられた。

鑑定結果

生前に「認知症」という診断は受けておらず、認知機能を評価する医療記録や介護記録などの資料が存在しない事案であったが、当時の家族の日記、写真、案件者直筆の手帳といった医療記録以外の資料を用いて、案件者がアルツハイマー型認知症を発症していたことを推察することができた。

また、入院中の診療録・看護記録などから、自筆遺言が作成された当時のK氏の身体状態および判断力等の認知機能を評価し、遺言の内容を正当に理解し、判断し、作成する能力を有していた可能性は否定される見解となり、意見書作成を行った。

コメント

後日、代理人弁護士の先生より、意見書をもとに交渉した結果、無事にクライアントの満足いく結論で遺産分割調停を終了できたと報告をいただきました。

メディカルリサーチの意思能力鑑定では、医療記録だけでなく、当時に作成された介護日記や写真、映像や音声データ等も、案件者様の当時の認知症の有無や認知機能の程度を評価する上で参考にしています。
また、認知症だけでなく、内科・脳神経外科・精神科など、各専門領域の専門医が、それぞれの専門性を踏まえて、意思能力の鑑定を行っています。
類似案件でお困りの際には、お気軽にご相談ください。