医療過誤

  • #死亡原因

事例11 小児 医療過誤事案

【概要】

患児は、相手方病院にて骨髄異形成症候群(MDS)から移行する急性骨髄性白血病(AML)と診断されバンクドナーより非血縁骨髄移植(UBMT)し完全緩解。

しかし、数年後に再発、治療を行うも寛解せず、相手方病院にて再度、非血縁骨髄移植(UBMT)を行い退院したが、翌月の検査にて末梢血に異常を認めハプロ移植。

この頃から全身状態悪化を認め、入院。
入院当日、左胸水穿刺施行、このとき胸水は血性で止血に時間を要した。

この後、倦怠感、悪寒、血圧低下があり輸血開始。
家人が再三ナースコールにて変調を訴えるが処置等なく、2時間後、心肺停止(CPA)にて心肺蘇生(CPR)試みるも死亡確認となった

①血圧の変動から読み解く

1、ショックの状態から出血性ショックの時間を探る

尿量の記載がカルテになかったため、日本救急医学会「ショックの診断基準」を用いての評価は困難であったが、ショックの定義として用いられる「ショック指数」は、心拍数/収縮期血圧である文献を活用し、家人がナースコールを行った時から患児は出血性ショックに陥っていたと判断した。

2、穿刺か胸水ドレナージが問題なのか

夕方から開始した胸水穿刺後の血圧は正常で推移していたが、その後進行性の低下を認めている。これは、胸水ドレナージが原因ではなく、穿刺による失血が原因であり、出血に起因する血圧低下に合致すると判断した。

3、薬剤の影響はなかったか

投与されていた薬剤で血圧に変動を与えるのはラシックス注とダイアート錠である。

②死因についての考察

1)肺損傷での気胸なのか

死亡直前に胸腔ドレナージを行われ、重大な合併症は「肺損傷」と「胸壁からの出血」である。「肺損傷」の多くは、穿刺で肺に穴が開き、肺の空気が胸腔内に漏れて肺がしぼむ「気胸」である。診療録および看護記録では、空気が排出された記録がなく、AI画像でも気胸を認めないため否定。

2)もう一つの重大な合併症「胸壁からの出血」動脈損傷

穿刺時に肋間動静脈や内胸動静脈を損傷することで、血胸となる。ドレナージ後の排液も淡血性を示し、その後の採血では、RBC ● 万/μl、Hb ● g/dl、Ht ● %と生存が困難な程度の出血性貧血を認めていた。
AI 画像では、両側に胸水を認めるが、均一濃度の右胸水と比較し、左胸水は背側部が白色かかったグレーを呈し、血胸に合致した所見。
穿刺から死亡までの時間経過を考えると動脈損傷と考えるのが自然である。なお、血便については、AI 画像上では消化管にHb 3.0 g/dl まで低下を来たす多量の出血を疑わせる所見を認めていない。

以上より、死因は胸腔ドレナージの合併症である胸壁からの出血により、血胸に至った失血死である。なお、穿刺部位が明確ではないため、肋間動脈損傷か内胸動脈損傷か具体的な血管は不明である。

③被告病院における問題点

熟練した医師が行っても一定の確率で合併症は発症するため、合併症を発症させたことを責めるべきではないものの、手技の習得と同様に合併症の対応方法の習得も医学教育には重要である。今回、合併症の診断および対応に問題があったと判断。

④総括

被告医師は、予想される合併症に対して呼吸器外科医の所在を確認することなく、また合併症を早期に発見するために看護師へ具体的な指示もないため、血胸の発見が遅れた。更に、血胸と判明した後も、止血処置を行なうこともなく、呼吸器外科医へ連絡することもしなかった。胸腔ドレナージを行なうにあたり、準備、合併症の診断、合併症に対する処置のいずれにおいても過失が重なったために死に至った。

⑤意見書提出のその後・・・

上記内容の意見書を提出し、数回の弁論を重ねた後、和解が成立。