- #精神疾患
事例18 子どもの親権争い。母親には精神疾患があると認定できるのか。
【事案の概要】
鑑定対象者:S氏 20代 女性
ご依頼者:S氏の夫であるT氏の代理人弁護士
S氏とT氏は平成●年に結婚し、翌年、S氏は第一子である長女を出産した。
長女の出生後、S氏とT氏は育児の内容などを巡って衝突することが増え不仲となった。
また、S氏は時折、育児を放棄するような言動や精神疾患を疑うような異常な行動を行うことがあった。
T氏はS氏に対して心療内科の受診を勧めたが、S氏は受診を拒否。
そのような生活が続く中、T氏が仕事で不在にしている間に、S氏は長女を連れて遠方の実家へ戻り、直接連絡が取れなくなった。
その後、S氏は家庭裁判所に離婚調停を申し立てた。
T氏は離婚には同意したものの、調停では長女の親権が争われることとなった。
T氏はS氏には精神疾患を疑わせるような異常性があり、長女の親権者として不適格であると主張している。
しかしながら、S氏は精神科や心療内科への受診は拒否しており、診断を受けていない状態が続いていた。
T氏の代理人弁護士から、S氏について、精神疾患であるという判断が可能か、医学鑑定の依頼となった。
【検討のポイント】
鑑定対象者の精神疾患を疑うようなエピソード、鑑定対象者を撮影した写真や動画といった医療記録以外の資料から、何かしらの精神疾患又は発達障害の存在についての診断は可能か。
【検討内容と鑑定結果】
S氏の異常な行動として、以下のようなものが挙げられた。
- 両腕にリストカット痕が多数あり、T氏との結婚後もリストカットしている様子が見られた(S氏はリストカットは過去だけのものであると否定)。
- 長女が生後3ヶ月程度の頃から、家出を繰り返していた。2~3日帰宅しないこともあった。T氏と口論の末に家出する際は、大声を上げながら玄関から飛び出ていった(動画あり)。
- 突然、独り言を言いながら盛り塩を行っていた(動画あり)。
- T氏が体調を崩して救急搬送されるほどになっているにも関わらず、S氏はその様子を心配する風でもなくスマートフォンで撮影していた。
リストカットは自傷行為※である。S氏本人は、結婚後は行っていないと否定しているが、S氏を撮影した写真からは比較的新しいリストカット痕が認められた。
大声を上げながら家を飛び出ていく様子については動画で確認することができるが、S氏本人は「覚えていない」と話している。
※自傷行為:自分で自分のことを傷つける行為のことを言う。自分の心の中にある不安や抑えきれない感情を処理するために、言葉で表出せずに処理しようとする方法として取られる。うつ病や摂食障害、パニック障害、解離性障害、外傷後ストレス障害、境界性パーソナリティ障害など、様々な心の問題や精神疾患で見られることが多い。
S氏を医療者など専門職がアセスメントした資料がないことや、S氏が夫と知り合う以前の状況の情報が少ないため、診断を下すことは困難という結論に至った。
しかし、S氏はストレスに直面すると自傷行為に及んだり、突発的な行動に出やすい傾向にあることが推察された。
一方、S氏に妄想や幻覚などの症状があるのか否かは資料からは判然としなかった。
ご依頼者が当初希望されていたS氏の精神疾患を指摘するには至らなかったが、
「長女への影響も考慮すると、S氏が精神科専門医の診断を受け、何らかの疾患に該当するかどうかをきちんと判断することが必要である」
との内容にて、精神科専門医による意見書作成を行った。
以上