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事例12 被相続人に判断能力はあったか?〜臨時株主総会決議および公正証書遺言の有効性が争われたケース
ご依頼者:被相続人の長男
事案の概要
食品製造企業経営者であった被相続人Aには、死別した妻との間に長男B、および現妻の連れ子であり養子縁組した次男Cがあった。
長男BはAの後継者として会社経営に携わっていたが、経営方針をめぐりAと対立したことを機に会社経営から身を引き、Aとも別居。しかし、別居後も、Aは長男Bに頻繁に事業の相談をし、事実上長男Bを経営に参加させていた。
その後もAとBの親子関係に大きな変化はなかったが、Aが74歳の時に脳出血を発症し、以後リハビリのため長期入院となったさいAの介護は基本的に現妻が行っていたが、当時は妻も体調不良気味で、長男Bも父Aの世話を行っていた。また、Aの長期入院後は、長男Bが取締役に復帰し、事実上の最高責任者として会社経営を取り仕切っていた。
長男BはAの世話を続けていたが、ある日突然、Aが別の施設に移り、現妻と次男CでAの世話をすることを知らされる。その後、BはAの所在を知らぬまま1年が経過。
ある日、長男Bは、会社の顧問弁護士から、取締役の解任と、次男Cが代表取締役に就任した旨の通知がなされる。次男Cは大学卒業後もフリーターで会社経営には全く関わっていなかったが、株式の1割しかもっていなかった長男Bの知らない間に臨時株主総会が招集され、決議がなされたものであった。
それから1年弱経過した時期にAは死去。長男Bは顧問弁護士よりAの公正証書遺言の存在の事実を知らされる。その内容は、A所有の株式のすべてを次男Cに相続させるという内容であった。
これを受けて長男Bは、公正証書が作成された時期には、A氏が重篤な認知症であったことは明らかであり遺言は認められないこと、また、臨時株主総会での決議もその有効性には疑義があるとして、弁護士に相談した。
長男B代理人である弁護士から、弊社メディカルリサーチに、遺言作成当時のA氏の意思能力(遺言能力)について、鑑定依頼がなされた。
弊社鑑定結果
【臨時株主総会に出席した当時のA氏に判断能力】
→当時の頭部画像から、A氏には、正常圧水頭症などの合併が疑われ、高次脳機能障害の疑いがある
【株式譲渡契約作成当時のA氏にかかる法律行為を行える意思能力】
→意思能力が欠落していたと考えられるこれ以前の頭部CT画像でも所見を認める
【公正証書遺言作成当時の、A氏の遺言能力】
→頭部CT画像では、前頭葉・側頭葉の瀰漫性萎縮を呈しており、正常圧水頭症の疑いがある以上より遺言能力の欠缺が示唆される
A氏 74歳の脳梗塞発症時 および 2年半後のCT画像
発症時CT
発症後年半後CT
各画像の所見
左視床出血の急性期病変を認めます。脳室内穿破を認めます。
両側側脳室から、第4脳室まで穿破した急性期の血腫を認めます。
シャントチューブをいれるほどの出血量であり、その後脳の急速な瀰漫性萎縮を呈しており、全脳への虚血性変化をきたしたものと思われます。
1年後:脳の瀰漫性萎縮の進行を認めます。
2年半後:脳室の著明な拡張を認め、水頭症を示唆する所見です。
脳室内出血後の水頭症、とくに正常圧水頭症を疑います。