PLAZA総合法律事務所
平出 晋一 先生
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遺言の有効性が争われた事案で、意思能力鑑定を利用しました。
遺言無効確認請求訴訟において、遺言の有効性を争うべく、メディカルリサーチさんのご紹介を受け、専門医に意思能力(遺言能力)の鑑定をしていただきました。
裁判所は、当初、私的鑑定を行うことに消極的だったと記憶しています。
今回の案件は、カルテや主治医(内科医)の意見などが残されており、医療資料がある程度揃っていましたので、わざわざ鑑定をする必要はないでしょう、というお考えだったのかもしれません。
裁判官が書かれた法律専門誌の記事にも、そのような考え方が記載されているものがありました。
しかし、私は、必ずしも主治医が認知症の病態に詳しいとは限らないと思っていましたので、中立的な立場の専門医に依頼して鑑定を行っていただきたいと考えました。
そのため、裁判所に対して、専門医の意見書を用意することを申し出たところ、採用していただき、相手側は相手側で意見書を用意することになりました。
訴訟提起から1年ほど経過していたと思います。
「意見書前相談サービス」で有意な見解を確認し、正式な意見書作成を依頼しました。
メディカルリサーチさんのサービスは全く知らなかったのですが、たまたまその頃「自由と正義」に広告が出ていたので、問い合わせをしました。
遺言書作成時に遺言能力はなかった、という見込みはあったものの、医学的な知識がないため、本当にそうなのかは自信がありませんから、依頼者と相談のうえ、意見書作成を依頼する前に利用できる「意見書前相談サービス」から利用しました。
事前にメディカルリサーチさんのスタッフ及び提携されている医師と直接面談して案件の内容や質問事項をお伝えし、それを前提に、メディカルリサーチさんにこの案件を鑑定するのに適した医師を探していただきました。
精神科の医師といっても専門分野が細かく分かれていますので、この事前のヒアリングはとても役に立ちました。
そのうえで、資料を一式お渡しして、医師の見解を待ちました。
出てきた見解は、「意見書前相談」とはいえ、かなり正式鑑定に近い充実した内容で、かつ、非常に明快な文章で作成してくださっていたため、分かりやすく有り難かったです。
これにより、当方の主張に有意な見解が得られましたので、正式に意見書作成を依頼することとし、できあがった意見書を裁判所に証拠として提出しました。
遺言能力の判断にあたっては、遺言作成の背景事情から紐解き、遺言者がその遺言がもたらす結果まで理解しているかが検討されるべきだと思います。
今回、問題となっていた遺言の文言は、いわゆる「全財産を相続させる」というものでした。
私は、さまざまな文献や論文を参照した結果、遺言文言が単純でも、遺言者が、遺言作成に至るまでの背景事情や相続開始後に遺言内容によって生ずる結果を予め理解できていなければ遺言能力を認めるべきではないという考え方が、学者の間だけでなく裁判所でも広まりつつあることを感じていました。ですから、今回の案件においては、そのような考え方に基づき、遺言者がそのような事情まで理解して遺言を作成したとは考えられないことを、遺言者の家族関係の歴史から紐解いて主張しました。
なかなか大変な作業でしたが、当初は遺言能力や認知症の有無の判断において、過去における遺言者と親族との関係性など「関係ないのでは」という様子だった裁判所も、次第に関心を示すようになり、相手方も、その俎上に乗って主張を展開することになりました。
背景事情や遺言がもたらす結果まで考えると、遺言文言が簡潔だから認知機能は低くても構わない、という単純な話にはならないはずです。遺言を行うに至った事情と認知症がオーバーラップしていき、やっと、その遺言おかしいよね、と裁判所を納得させることができるストーリーが見えたと感じました。
刑事事件の精神鑑定について勉強したことも役立ったかも知れません。
高名な精神科医が、刑事事件における意思能力の鑑定は、犯罪に至るまでの経緯、生育環境といった背景など、その人の歴史を一度追ってみないと正しい判断ができないという趣旨の論文を書かれていましたが、本当にそのとおりだと思いました。これは民事事件でも同じだと思います。
認知症はとても複雑な病態。法律専門家には認知症の理解がまだまだ足りないと思います。
今回、精神医学関連の学会誌などを読んで実感したことは、「認知症というものの難しさ」です。
最近は認知症関連の事件が増えていると思いますが、弁護士も裁判官も、日常生活ができていれば認知機能は「問題ない」と安易に判断しがちで、あえて専門医の見解を求めないケースも多いと思います。
しかしながら、今回の件を契機に、認知症について、普通に日常会話はできていて、見かけだけでは認知症とは分からないケースがたくさんあったり、一言に記憶喪失といっても、記憶力全体が下がるということではなく、ある部分だけが抜け落ちるたりと、その病態が非常に複雑だということを知り、認知症か否かを判断するためには専門医の意見が不可欠であることを改めて実感しました。
これから、日本はますます高齢者社会になって、認知症関連の法律トラブルが増えていくと思いますが、認知症が複雑な病態であることや、認知症か否かを判断するためには専門医の意見が不可欠であるということが、法律家の間でもっと共有される必要があると思っています。
鑑定サービスの利用にあたっては、法律家として検討してもらいたい事実やポイントを上手に伝える必要があると思います。
これまで鑑定が採用された事件をいくつか経験してきましたが、やはり、法律以外の専門分野、たとえば医療であれば、医療の専門家の知見が重視されるべきだと思います。
もっとも、医師と法律家が別分野の専門家である限り、それぞれに見えるところと見えないところがあるわけで、依頼者のために仕事をする法律家としては、鑑定を上手に利用するということが大切でしょう。
ですから、鑑定サービスを利用するにあたっては、法律家として検討してもらいたい事実やポイントを、わかりやすく医師に伝える必要があると考えています。
ただし、それが行き過ぎると医師に先入観を与えることにもなりかねませんので、慎重に考える必要があると思います。真っ白なまま判断してもらいたいという気持ちもありつつ、ただ、医療の素人として、法律家としてここは重要だと考える事実を指摘したり質問をしたりすることは、それが医療の専門家から見れば的外れな指摘になるかもしれませんが、案件の内容を正確に把握していただくためにも、また、事件を迅速に解決に導くためにも必要だと思っています。
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