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事例17 高齢者が交通事故を機に寝たきりになり死亡。事故による後遺障害・死亡と事故との因果関係は肯定できるか?
【事案の概要】
鑑定対象者:E氏 当時70代後半 女性
ご依頼者:E氏の相続人の代理人弁護士
E氏は元々持病もなく、一人暮らしで日常生活における動作は全て自立されていた。
E氏は買物途中に交通事故に遭い、骨盤・大腿骨・脛骨を骨折し、入院。大腿骨骨折に対し手術を受けた。その後、歩行障害が残存した状態での自宅退院は困難であるため、リハビリ目的に入院を継続。しかし入院中に体調が悪化し、後遺障害認定を受ける前に死亡した。
E氏の死後、相続人が原告となり事故の相手方への損害賠償請求訴訟を提起。
E氏が死亡しなかった場合の後遺障害等級、E氏の死亡と事故との因果関係が争点となった。
E氏の歩行障害は交通事故による後遺障害といえるのか、事故による後遺障害であるとすれば、どのような等級になったと判断されるのか。また、E氏の死亡と交通事故に因果関係はあるのかについて、医学鑑定のご依頼となった。
【検討のポイント】
(1)後遺障害について
①E氏の骨折に対する治療の妥当性
骨盤骨折 :CT画像より、骨折の程度は手術適応ではないと考えられ、保存的治療の選択に医学的な問題はない。
大腿骨骨折:損傷部位が大きく手術適応であり、観血的骨接合術が施行されている。正確な手技で適切な治療が行われているといえる。
左脛骨骨折:損傷程度からすると手術適応でもあったと言えるが、80歳代という年齢や、歩行時における負担が少ない部位であり、保存的治療の選択に医学的な問題はない。
また、関節可動域訓練や歩行開始時期、リハビリテーションも不備なく行われていることから、E氏の骨折に対して行われた治療は妥当・適切であったと評価できる。
②後遺障害等級
適切な治療は行われたものの、特に大腿骨骨折と脛骨骨折は損傷程度が重症であり、治療後も疼痛や膝関節の可動域制限などの後遺障害が残存する可能性が高い。
また、骨盤骨折後の後遺障害として、偽関節※、骨折部位の疼痛、股関節の可動域制限が考えられる。
しかしながら、E氏はリハビリ途中で死亡しているため、正確な関節可動域の計測が実施されていない。
※偽関節:骨折の重篤な後遺症の1つであり、8ヶ月以上経過しても骨癒合を認めないものや骨折部の骨癒合の過程が完全に停止したものをいう。
(2)死亡との因果関係について
骨折受傷による股関節や膝関節の痛みがあったことに加え、骨折治癒までの運動制限、歩行制限により廃用症候群※となったことで、筋力低下、呼吸循環機能低下が進み、ベッド上での生活となった結果、認知障害が生じ、進行したと考えられる。
E氏が死亡した年の日本人の平均寿命や、E氏の年齢の平均余命を考慮すると、E氏が事故に遭遇することがなければ、本鑑定実施時点でも健在であった可能性が高いことから、事故と死亡との因果関係は十分にあるといえる。
※廃用症候群:過度の安静や、活動性が低下したことによる、筋骨格系、循環・呼吸器系、内分泌・代謝系、精神神経系など各臓器身体に生じる様々な状態をさし、日常生活自立度を低下させる。
【鑑定結果】
(1)後遺障害について
E氏は事故に遭う以前は一人で買物に出かけていたことから下肢の運動機能に問題はなかったといえる。
事故による受傷後は、骨折部位の疼痛、特に膝関節・股関節において正常関節の3/4以上の可動域制限(伸展0度、屈曲90度)が残存していた可能性が高く、下肢の機能障害による後遺障害等級12級7号「1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」に該当すると考えるのが妥当である。
(2)死亡との因果関係について
高齢とはいえ、事故以前は健康で自立していたE氏が、受傷後1年と比較的早期に死亡したことから、E氏の死亡に交通事故が寄与した可能性は高いと言える。
以上の内容にて、整形外科専門医による意見書を作成した。
【意見書提出後の裁判の結果】
一方で、事故受傷から死亡までの経緯が考慮され、入通院慰謝料を基準の算定額より増額する等の和解が成立した。
以上