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事例22 脊髄空洞症とは?脊髄損傷との鑑別・外傷性か非外傷性かを画像所見から検討したケース
【事案の概要】
鑑定対象者:Y氏 50代 男性
Y氏の運転するバイクと普通自動車との衝突事故により受傷。
受傷直後より、Y氏には四肢麻痺を認め救急搬送された。
搬送先の病院で頚髄損傷と診断され、入院となる。
約1ヶ月で退院し、通院にてリハビリを継続。
約1年間のリハビリにて症状は少しずつ改善したが、頑固な手足の痺れが残存した状態で症状固定となった。
自賠責保険では、後遺障害等級第14級9号と認定された。
Y氏は事故の相手方を被告として損害賠償請求訴訟を提起。
しかしながら被告側は、Y氏の頚髄損傷の診断を否定し、非外傷性脊髄空洞症であると反論。
Y氏の代理人弁護士より、Y氏の画像所見について鑑定依頼となった。
【鑑定のポイントと鑑定結果】
第1.Y氏の画像所見は頚髄損傷か、非外傷性脊髄空洞症か?
3月4日 頚椎MRI
頚椎に外傷性変化は指摘できず、頚髄の異常も認められない。
3月26日 頚椎MRI
C6レベルの脊髄内中央付近にT2WIにて高信号域が認められた。
脊髄空洞症を示唆する所見である。
第2.Y氏の脊髄空洞症は外傷性か?
脊髄空洞症の原因は多岐にわたり、キアリ奇形※に伴うものが有名だが、その他、癒着性脊髄くも膜炎に続発するもの、外傷、脊髄梗塞、出血、炎症性疾患に伴うもの、髄内腫瘍に伴うものなどがある。
※キアリ奇形:小脳、延髄および橋の発生異常を基盤とする奇形で、小脳・脳幹の一部が大後頭孔を超えて脊柱管内に陥入する形態を呈する疾患
Y氏の場合、キアリ奇形等の先天性の奇形は認められず、癒着性脊髄くも膜炎や脊髄梗塞、出血等の既往もなく、またその既往を疑わせる様な画像上の異常所見も指摘できなかった。
なお、3月4日のMRIでは指摘できなかった脊髄空洞症を示唆する所見が、3月26日のMRIで指摘できる原因については、「外傷後脊髄空洞症」という概念があり、受傷後数週間を経て進行性に出現してくるとされているため、画像の変化は外傷後の経過としても矛盾しない。
事故前になかった症状が事故後に出現したことと、経時的変化も含めた画像所見を合わせると、やはり、外傷によって脊髄空洞症が生じたと考えるのが妥当である。
以上より、画像所見としては外傷性脊髄空洞症と考えられる、という内容にて鑑定報告書を作成。
以上